2021年9月6日月曜日

英語の「mouse」の発音の変化

 文字が発音に影響する例になるかとのメモ書きです。 『英語の歴史から考える 英文法の「なぜ」』朝尾幸次郎、大修館書店 (2019/3/12)を見ています。

「mouse」の前にイギリスの歴史の知識から フランスのノルマンディー地方にデーン人が侵入してきました。フランス王はこれを認め、この地に住んだデーン人をノルマン人といいます。Northのmanで北の人の意味です。彼らは古ノルド語を捨てフランス語を使うようになり、フランス化していったとのことです。1066年頃、ノルマンの英国征服が起こり、フランス語による統治が行われ、支配者はフランス語、被支配者のアングロサクソンは英語という二言語社会となったとのことです。ところが1204年にフランスとの争いに敗れ、ノルマンディーを失います。その後、英語の復権が行われましたが、フランス語の影響を大きく受けています。 料理や軍事用語、法律・経済用語に多くあるようです。また英語に類義語を生むことになり、その例がいくつか示されています。 begin(始める) commence(開始する) buy(買う) purchase(購入する) 以下省略しますが、訳もちゃんと対応していて日本語もすごいなと思います。

文法の影響では、形容詞・副詞で-er/-estをつけるのとmore/mostを前につけるのがありますが、後者がフランス語の影響のようです。

さて、文字の話になりなります。印刷術が普及するまでは写字生(scribe)と呼ばれる人が書き写していて、フランス語風の綴りになってしまい、現代のqueen(女王)やquick(速い)は古英語ではcwen,cwicと綴っていてquを用いるのが一二世紀から一三世紀に表れ、一四世紀以降にqu-に統一されます。フランス語ではcに[k][s]の読みがあり、keepの古英語はcepan(ケーパン)と読むのが、フランス語では[s]で発音することになってしまい、これを防ぐために[k]をkの文字で表すようにしたということです。ところがcomeの古英語のcumanはフランス語でも[k]の発音なのでそのまま残り、英語ではkとcという不統一なことになったようです。 ほかにもあって、ノルマン写字生は〔u:〕をou と綴り、古英語のhus(家、フースと発音)はhous(e)に、mus(ねずみ、ムースと発音)はmous(e)になりました。 このmusの変化ですが、140ページに
古英語 → 中英語 → 大母音推移 → 近代英語
ムース →   ムース  →  メウス  → マウス 
mus   →  mous(e) →  mouse  → mouse

と変化したとの説明があります。しかしmousはモウスに近い発音でったのではと妄想します。
ムース →   モウス  →  メウス  → マウス
のような変化で、大母音推移によって変化したのとは違う気がします。

綴りの話の続きですが、文字のuの次にmnvなどが来ると縦線が連続して判読しにくくなり、uをoに置き換えられました。古英語のcuman(来る、クマンと発音)は中英語ではcumen(クメンと発音)、現代英語ではcome ですが、〔kʌ'm〕です。綴り字oを〔ʌ〕としています。つまりウの発音が文字oに引きずられてしまい、曖昧な発音になった気がします。

発音から文字が生まれたのは確かですが、その後に、文字に発音が影響され変化していったことがあり得ると思います。

大母音推移とは、1400年頃から1600年頃にかけ英語の長母音が大きく変化した現象です。中英語で強勢を持つ7つの母音がすべて変わったのですが、そのわけは解明されていないようです(この本によれば)。


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