2021年4月27日火曜日

祭壇の数学

 『インドの数学 ゼロの発明』、林隆夫、筑摩書房、2020年9月10日 の感想です。宗教的祭祀に数学が関与したことは確実だと思ってきました。科学的合理性を持ってこそ普及していき、いかがわしい宗教はすたれてていくのだと思います。日本の古代において神道と仏教では仏教優位は当然のような気がします。 三平方の定理を使えば、大きさがaの墓とbの墓を合葬してcの墓を作るのも、直角三角形の斜辺になるのですっきりとできます。正方形でも円形でも辺と面積の関係では

  a² + b² = c²
は成立し、簡単に直角三角形を作図すれば誰でも求められます。 ついでですが、直角をだすための直角三角形の縄張りで、ロープで辺の長さを決めるのも、文章で説明するのは面倒ですが、実際の作業では簡単です。(3,4,5)の三角形も「4」を基準にプラスマイナス1で「3」と「5」を作れます。「1」は「4」の半分の半分です。3+5=8の長さの中央から1だけずれた点をとれば「3」と「5」になります。古代の人には常識だった気がします。

以下はメモ書きです。 1ページに、

ヴェーダ文献は、紀元前二千年紀の中頃から波状的にインド亜大陸にやってきた西方からの侵入民族アーリア人が、北部インドを西から東に向かってガンジス川沿いに定住を進めながらおよそ千年の間に作り出した一種の文献である。それらは、基本的にインドアーリア民族の祭礼儀礼に関わり、祭式での役割に応じて、リグヴェーダ(神々への讃歌)、サーマヴェーダ(旋律をつけた讃歌)、ヤジュルヴェーダ(祭詞)、アタルヴァヴェーダ(呪句)の四つのヴェーダ(知識)に分かれる。それぞれで、サンヒター(本集)と呼ばれる部分が最下層をなし、ブラーフマナ(祭式の儀軌、解釈、意味づけ)、アーラニヤカ(森で伝授された秘伝)、ウパニシャッド(哲学的思索)が続く。  ヴェーダ文献、特にその中核をなすサンヒターは、かなり後世(少なくとも八世紀)に至るまで文字に書き下されることもなく、驚異的正確さで師から弟子へ口伝された。その知識(ヴェーダ)の伝承をほとんど独占的に担ったのがブラーフマナ、いわゆるバラモン階級である。これに対して、紀元前六世紀頃からヴェーダの祭式万能主義に対する反省や懐疑が表面化してくるが、なかでも仏教とジャイナ教とは、有力な武士階級(クシャトリア)や富裕な地主商人階級(ヴァイシュヤ、ガハパティ)の支持や援助を受けて、大きな勢力になってゆく。 ヒンドゥー教系数詞  祭祀において数が唱えられる。 仏教系数詞  10の59乗を超える。

シュルバスートラ(祭壇の数学)  ヴェーダ文献は祭式儀礼に関わる書である。その祭式は、グリフヤ祭式(家庭の祭式)とシュラウタ祭式(シュルティに基づく祭式)の2種類に大別される。前者は、誕生、入学、結婚など、人生の様々な節目に際して、一人の祭官を雇い家庭内で執り行う比較的小規模の祭式であるのに対して、後者は、特定の願い事をかなえるために、祭主がそのたびごとに特別に祭場を設け、いうつかの職業に分かれた何人かの祭官を雇って執り行う大掛かりな祭式である。  シュルティ(天啓聖典)というのは、ヴェーダ文献のなかでも最古層のサンヒターを初めとして、ブラーフマナ、アーラニヤカなどの古くて権威のある文献の総称である。シュラウタ祭式はそれらシュルティ文献に基づいてなされるが、個々の祭式を細部にいたるまで正しく実行するためには、それだけで不十分であった。そこでそれを補うために作られたのがシュラウタスートラであり、各祭式の初めから終わりまでを細かく規定する儀軌からなる。そしてそのシュラウタスートラの一部、または補遺をなすのが、祭場設営に関わるシュルバスートラ、「縄の経」である。

以下、略して記述。

構成について、基本作図法と祭壇設置法があり、アグニチャヤナという、火神アグニの祭壇を作るために煉瓦を積み上げること(チャヤナ)が他を圧倒する。祭壇の形はいろいろで、鳥の形、車輪の形、飼葉桶の形など様々あるが、念入りに記述されるのは、祭主に天界をもたらすとされる鷹の形をした祭壇である。これらの祭壇には決められた条件があり、祭壇の面積も定まっている。それで基本作図法によって、長方形・正方形の作図法、正方形の面積の3倍化と三分の一倍化、正方形の二つの面積の和と差、円から正方形の当面積変換などが示される。  幾何学図形の作図には、ダルバ草(和名チガヤ)の茎で作られたラッジュというロープとシャンクと呼ばれる短いクイが主である。ロープのかわりに竹が用いられることもある。クイは点を決め、ロープは長さを決める。円や円弧を描くことについては既知とされるが、問題は四角形などの直角や並行を得る方法である。 1)直角三角形の利用 2)二等辺三角形の利用 3)円または円弧の利用 がある。1)では三辺の長さが(3,4,5)、(5,12,13)、(8,15,17)、(12,35,37)などの整数値になる直角三角形(ピタゴラスの三角形)などが用いられる。

説明では、(5,12,13)の三角形の作り方がある。12を基準にして、それに半分の6だけ延長する。延長した分のうち、半分のそのまた3分の1、つまり1の長さを求め、点を決める。そこが12+1で13となり、残りは6−1で5となる。13と5の長さができ、もともとの12があるので、長さが全部そろうことになる。文章ではややこしいが、実際には直角三角形が案外簡単に作図できる。

三平方の定理の発見が、新石器時代ヨーロッパ起源説もありえるが、文献的にはウル第Ⅲ王朝期(紀元前二二-二一世紀)以降のメソポタミアの粘土板である(303ページ)。