東歌《あずまうた》・防人歌《さきもりうた》 近藤信義著、コレクション日本歌人選022、笠間書院
という本を見ました。この中に、東歌三十六首、防人歌十四首、解説などがあります。すべての防人歌の中で独自性が際立っているとしている歌を引用します。出典:万葉集・防人歌・四三八二
「ふたほがみ悪しけ人なりあたゆまひ我がするときに防人に差す」
「ふたほがみ」や「あたゆまひ」が良くわからないそうですが、「ゆまひ」が病のようで、訳として「ふたほがみは悪い人だ。私が不都合な状態にあって苦しんでいるのに、こともあろうに防人に指名するとは・・・・・・」とのことです。
このような不満の歌はいくらでもあるかもしれませんが、大伴家持が握りつぶせば、世に現れることはありません。うっかりと入ったものではなく、家持の意思があったと思います。
この歌は、先の本には、巻二〇の天平勝宝七歳(七百五十五年)二月、東国十ヶ国から防人が徴集され、難波に集結したときの歌の一つです。家持は、兵部少輔の位にあり、検校《けんぎょう》(監査役)として関わり、防人は難波到着時に進歌(歌をたてまつること)を求められていたので、家持はこれを受け取ったということです。家持は、進歌の日付、部領使(引率責任者、国司相当の役職)の国名、官名、氏名、進歌数などをきちんと記録しているそうです。巻十四の防人の歌には名前が無いことから、家持ちは武人として防人を遇したあらわれであろうと書かれています。私には、家持が、防人と同じ環境(防人が侵略していった東国の元支配層の人のイメージ)にあるとの意識を持っていて、丁重な対応をしたように思われます。
作者は下野国那須郡上丁大伴広成とのことです。大伴氏ということで、家持とは関係ある人かもしれません。また、家持が防人の歌に仮託して入れた可能性があるかもとも思います。体制を批判する歌がたくさんあれば問題ですが、一つだけ忍ばせているので、万葉集の歌を抜粋して選ぶときには、省かれてしまいそうです。ハンドブック的な本を見たりしていて、今回、近藤氏の本を見て、はじめて知りました。この体制批判的な問題発言の歌ですが、歌としては単に文句を言ってるだけなので、拙劣歌のように私には思われます。あえて拙劣歌を一首入れて、防人に文句のある歌がほかにもいっぱいあるよという暗示かもしれません。物言えば唇寒しの時代であったろうとは思います。このあと、天平宝字元年(七百五十七年)には東国からの防人は中止されたそうです。
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